Orchestrated experience-driven Arc responses are
disrupted in a mouse model of Alzheimer's disease. Rudinsky N, et al. Nat Neurosci. 2012
Oct;15(10):1422-9. doi: 10.1038/nn.3199.
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マウス脳内にできた老人斑 |
今回の論文は、アルツハイマー病患者の脳に沈着する、アミロイドβ42(以下Ab42)周囲では、神経伝達がオカシクなっているという内容。
アルツハイマー病に関しては、以前も取り上げました。参考に。
さて、本論文で用意したのは、2つのトランスジェニックマウスをかけ合わせたマウス。1つはAb42を脳内に発現するように作ったマウスで、APP/S1と呼ばれる。これは、ヒトのAb42の元となる、変異型のAmyloid precursor protein(APP)遺伝子と、APPからAb42を切り出すPresenilin1(PS1) の変異型遺伝子を導入したマウスで、脳内にAb42を高発現し、老人斑を形成する。
ちなみにマウスは年をとっても自然にはAb42の沈着が起きない。従って、研究のためには
脳内に沈着する、変異型のApp遺伝子を導入する必要がある。
そんな風に作ったアルツハイマー病モデルマウスというのはいくつか種類があり、私もそれ
を使って研究していた時期がある。写真は、その時に撮ったマウス脳内にできたAb42の
免疫染色写真(未発表)。まぁ研究はポシャったんですけどね…利用したマウスは身体が弱い
くせに1年以上飼わないとAb42が顕在化してこないので大変でした(1人ではしたくない…)。
↓こちらも参考に
もう1つの系統は、
Arcという
最初期遺伝子の発現を
YFP(yellow fluorescent protein, Venus)という蛍光蛋白質で光るようにしたもの。Arcは神経細胞のシナプス後タンパクの1つで、グルタミン酸受容体AMPA受容体と協調し、記憶学習に関わる。このマウスでは、何か刺激があると、Arcが発現されてくるが、それをYFPの光で確認できるというわけだ。
ちなみにYFPに似たものとして、ノーベル賞を獲った下村脩さんの
GFP(green fluorescent
protein)。
さて、老人斑周囲ではAb42が高濃度に存在し、神経細胞活動が通常と異なっていることが知られているが、実をいうとそれがArcの発現(ひいては神経細胞活動)の多寡とどのように結びついているかは研究によって差があった。
本論文では、この2系統のマウスを組み合わせることにより、Ab42が蓄積している周りでのArcの発現を視覚野で見ている。
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論文より。Figure 1 を改変 |
左の図は、視覚野でのArcの発現を見たもの。上段左側が、マウスを暗黒下に置いた状態。その状態に60時間、次に光刺激を1時間、さらに6時間暗黒下に置いてから見ている。
下段、光っているのがArc。YFPのおかげで光って見えている。
これにより、わかったのは、老人斑周囲では、Arcの反応性に歪みが生じており、視覚刺激後の反応性が異常に高まっているニューロンがある一方で、反応しないニューロンも多くなっており、全体的には老人斑に近いほどArc反応ニューロンの割合は少なくなっていること。
さらに、本論文では、上記視覚刺激条件を2回繰り返すことで、刺激1で反応したニューロンが、刺激2でどう反応したか?という反応の縦断的変化も見ているのだが、老人斑周囲のニューロンでは刺激2で反応しないニューロンが多い。
結論としては、刺激に対するArc反応性が老人斑周囲では変化しており、ニューロン同士の情報ネットワークの統合に問題が生じていることが示唆された。
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2種類のトランスジェニックマウスを掛け合わせることで、刺激に対する変性ニューロンの反応を見た、技術的にも面白い論文。老人斑周囲でのまだらな反応をみると、これまでの研究結果が矛盾していたのも成る程と思わせる。
アルツハイマー型認知症老人と接していると、決して全ての脳機能が一様に減じているのではなく、とてもシャープな部分がちぐはくに残っていることを実感することがあるが、ミクロレベルではこういうことが起きているのかと少しばかり納得した。