2013年2月16日土曜日

ヒトの脳を非侵襲的に刺激できる?





ヒトの脳に対する非侵襲的な刺激法の1つに、経頭蓋直流刺激Transcranial direct current stimulation (tDCS)法がある。
これは、頭に弱い直流電流(1-2 mA)を通すことで、神経細胞(グリア細胞?)の活動を修飾することが可能と考えられている。その作用機序には不明な点が多いが、今のところ「刺激部位にある細胞の静止膜電位を変動させる作用(閾値下)がある」と言われている。

近年、この刺激法を用いた研究をよく目にする。そこで、具体的にどのようなことに応用が可能か、また、限界は何かといった点について気になったので、いくつか論文を探してみた。


*************************
まずは、「tDCSを用いてlate LTP-like plasticityを誘発出来ました」という論文。
Induction of late LTP-like plasticity in the human motor cortex by repeated non-invasive brain stimulation.

Monte-Silva K, Kuo MF, Hessenthaler S, Fresnoza S, Liebetanz D, Paulus W, Nitsche MA.
Brain Stimul. 2012 Jun 2. [Epub ahead of print]

LTP (Long-term potentiation)とは、神経細胞間の結びつきが持続的に強化される現象のことで、その持続時間によって、Early-LTP(刺激後から約1時間持続)とLate LTP(3時間以上持続)とに分けられる。
これまでに、tDCSによる刺激では、Early-LTP likeな可塑的変化を誘発出来ると報告されている。

そこで、この論文の著者たちは、tDCSを使ってLate LTP likeな変化の誘発に挑戦している。Late LTPは長期記憶の形成に関わっている可能性があるため、この研究は長期記憶のメカニズム解明に役立つからやったとのこと。
方法は、tDCSによる刺激を2回に分けて実施(これまでの研究では普通1回)。刺激間隔は0分、3分、20分、3時間、24時間空ける条件を用意。

その結果、tDCSの刺激間隔を3分、20分とることで数十時間持続する長期増強 (Late LTP likeな変化)を誘発できた。また、この反応はNMDA受容体依存的なもののようだ。
さらに、0分の条件では、カルシウムチャネル依存的な活動性の低下、3,と24時間の条件では有意な変化は確認されなかった。

著者らは、Late LTP-likeな変化は、特異的な時間間隔で繰り返し刺激(tDCS)を行うことで誘発できるとしている。

※likeが付くのはLTPが実際に起こっているのかわかっていないため



*************************
続いては、「被検者は2mAの刺激 or Sham刺激の区別ができているよ」と、従来の研究の問題を指摘する論文。

Rethinking clinical trials of transcranial direct current stimulation: participant and assessor blinding is inadequate at intensities of 2mA.
O'Connell NE, Cossar J, Marston L, Wand BM, Bunce D, Moseley GL, De Souza LH.
PLoS One. 2012;7(10):e47514.

通常、tDCSを用いた研究デザインは、「本当に刺激するセッション」と「刺激はしないけど装置は取り付けるShamセッション」を用意する。Shamセッションはプラセボによる影響を排除するために行われる。
tDCSは、「刺激セッションとShamセッションの区別が付かない」と言われているが、著者たちは今回の論文で、「2mAで刺激した場合、被検者はその区別が可能であった」と報告している。つまり、被検者は「今回の実験は本当に刺激がきているな」or「今回はShamセッションだな」と判別できているということ。この状態では、Shamセッションの意味がなく、プラセボによる影響は排除できていない。

これまでに、2mAの強度で刺激することで、うつ病やその他疾患の症状が緩和されたという報告がある。著者たちは、そういった臨床研究の結果は慎重に見ていく必要があると述べている。


******************************************
今回は、非侵襲的にヒトの脳を刺激する方法(tDCS)についての論文を紹介しました。
tDCSの作用については、まだまだ不明な点だらけです。本当に目的の部位に、目的とする修飾が行えているのかははっきりとさせる必要があります。それらの点が証明されれば、とても有用な実験装置だと思います。

*************************
Photos:
Lamps in Kitaichi Hall, Otaru, Hokkaido, Japan
Night by a canal, Otaru, Hokkaido, Japan

0 件のコメント:

コメントを投稿