2012年4月27日金曜日

体外離脱体験は突然に

いつもの抄読会のあと、Unknownさんが取り出したのはヘッドマウントディスプレイとUSBウェブカメラ。

「今日はこれで例の記事の実験を体験してみましょう」とのこと。

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Nature ダイジェストに載って、面白そうなのでやってみようということになった例の記事とはこちら。
Out-of-body experience: Master of illusion.
Yong E.
Nature. 2011 Dec 7;480(7376):168-70.

上の記事はあくまで研究紹介である。この中でサイエンスライターのYongがストックホルムの神経科学者Ehrssonらの成果を紹介していた。

我々が研究室で試した実験は、代表的なこちらの論文に載ったもの。
The experimental induction of out-of-body experiences.
Ehrsson HH.
Science. 2007 Aug 24;317(5841):1048.

そしてこの実験を端的に言えば、「体外(幽体)離脱体験」である。

2012年4月24日火曜日

思春期のストレスは成長後の恐怖反応を増強する

Juvenile stress potentiates aversive 22-kHz ultrasonic vocalizations and freezing during auditory fear conditioning in adult male rats.
Yee N, Schwarting RK, Fuchs E, Wöhr M. Stress. 2012 Jan 10.

思春期のストレスフルな体験が、大人になってからの恐怖反応に影響を及ぼすという論文。

以前より若齢期のトラウマ的な体験やストレスによって、将来不安障害を発症するリスクが高まるのではないかと言われていた。

そこでこの筆者たちは、ラットを使って思春期にストレスを与え、成長後に恐怖条件づけ課題を用いて恐怖反応に違いが現れるかどうかを調べた。
これだけだとそんなに新しいアイデアでもないが、特徴は恐怖反応の指標として最も広く用いられているFreezing(すくみ反応)だけでなくUltrasonic vocalization(USV:超音波発声)も測定していること。

2012年4月17日火曜日

海馬–前頭前野の結合性の違いは長期記憶のパフォーマンスに反映される

Hippocampal-prefrontal connectivity predicts midfrontal oscillations andlong-term memory performance.


Cohen MX. Department of Psychology, University of Amsterdam, Weesperplein 4, Amsterdam 1018 XA, The Netherlands.


この論文は、ヒトの認知機能研究における「個人差を考慮した解析の重要性」と「multimethodological approachesの必要性」を示したもの。


私たちは今までの経験上、認知機能 、特に記憶能力には個人差がある事を認識している。
例えば、「○○は記憶力がいい」とか「△△は記憶力がわるい」とか。


しかしながら、これまでの認知機能研究では、計測結果における個人差はノイズとして捉えられ、平均化する事により相殺されている。
つまり、研究結果に個人差が反映されていないということ。


そこで、この著者は、ワーキングメモリ課題–長期記憶課題と脳波測定–拡散テンソル画像法を組み合わせる事によって、「構造的、機能的な個人差を反映した結果」を示している。

2012年4月16日月曜日

前頭葉機能をtDCSで強化する


Facilitation of probabilistic classification learning by transcranial direct current stimulation of the prefrontal cortex in the human
Tamás Z et al.,
Neuropsychologia 2004;42(1):113-7.

前頭葉課題を使った学習が、tDCS(Transcranial Direct Current Stimulation; 経頭蓋直流電気刺激)を左前頭前野に行うことで促進されるという内容。

やや古いが、tDCSが前頭葉課題学習を促進させる内容として結果がきれいなので紹介した。

tDCSがなんぞやというと、0.5mA~2mAほどの直流電気刺激を、頭皮上に与えることで、その直下の大脳皮質を刺激するというもの。
原理や手技的にはとても簡単なため、実は歴史は古い。

昨年のNature Digest 7月号に簡単な特集があったが、それによると、再び注目を集めたのは、1990年にPrioriらが行った実験結果を、実に1998年になってようやく認められ出版されてからのようだ。

2012年4月13日金曜日

恐怖記憶と関連のある脳部位は?

Luyten L, Casteels C, Vansteenwegen D, van Kuyck K, Koole M, Van Laere K, Nuttin B.
J Neurosci. 2012 Jan 4;32(1):254-63.

この研究は恐怖条件づけとラット用のPET(micro-PET)を組み合わせて恐怖記憶に関わる脳領域の特定を試みた研究。

恐怖条件づけには海馬依存的なパラダイムと海馬非依存的なパラダイムがあるが、この研究では前者を主な標的としている。
この研究ではmicro-PETを使うことで生きたラットの無傷な脳の代謝を調べることができる。

この手の研究にはこれまで脳の破壊実験や薬物投与による特定領域の不活化、脳摘出後の免疫染色など様々な手法が用いられてきたが、脳へのダメージや死後脳の使用という制限があった。

2012年4月3日火曜日

植物状態なのに脳内では返事できる患者

Cruse D, Chennu S, Chatelle C, Bekinschtein TA, Fernandez-Espejo D, Pickard JD, Laureys S, Owen AM.

Lancet. 2011 Dec 17;378(9809):2088-94.

以前ブログに載せたこちらの記事のチームによる報告。
大まかに述べると、植物状態の患者に音声による指示を与え、脳波で反応がとれたというものである。

植物状態は、大脳の認知機能などは絶たれているが、脳幹機能(呼吸・循環ほか)は保たれているというもの。遷延性意識障害とも呼ばれる。
「脳幹を含む全脳機能の不可逆的な停止」という脳死とは異なり、自発呼吸ができるので一見するとただ横になっている人のようにみえる。

重度の意識障害の患者を植物状態と診断するとき、体動で反応できないことなどを基準にする。 しかし最近の脳機能画像的研究により、そうした患者のうちに脳内では反応が出来ていることを示すことができるとわかってきた。