2013年9月8日日曜日

うつ病発症の個人差につながるNMDA受容体サブユニット

Bo Jiang et al.  Biological Psychiatry, 2013:74:145-155.

Nucleus accunbens(側坐核)は線条体の一部であり、腹側被蓋野からのドパミン入力を受けることから、薬物依存や報酬系との関連で研究が進んできた場所である。下図に示すように脳内の様々な領域と、多様な神経伝達物質を媒介した連絡があることに注目したい。

DA:ドパミン、5-HT:セロトニン、Glu:グルタミン酸
NE:ノルエピネフリン、GABA:γアミノ酪酸
Shirayama et al, Curr.Neuropharma,2006より改変
 さて、うつ病の症状の1つに、以前は「面白い、楽しい」と思っていたことに興味を持てなくなるというように、快感消失とか無快楽症(anhedonia)がある。この背景に、側坐核の関与する脳内報酬系の異常が考えられている。

 本論文の著者たちは、側坐核へのグルタミン酸神経の関与から、慢性的なストレスが側坐核におけるNMDA受容体(グルタミン酸受容体の1つ)のシナプス可塑性に果たす役割に変化をもたらし、うつ病発症に関わることを考えた。





 動物はC57BL/6マウス、9-11週齢のオス。彼らに対する慢性ストレスとしては、Chronic social defeat (CDS)*1がまず1つ与えられた。これは、特別に気の荒いCD1系統マウス(黒い体毛のC57マウスと違い、こいつらは白い)を選んで連れてきて、1日10分間一緒にして哀れなC57君を攻撃させるというもの。のみならず次の24時間は、接触はできないがその攻撃的なCD1が見える状態で一緒に過ごさせる、ということを10日間。
その後、別なCD1マウスと一緒にして、彼に対する接触の程度を見るSocial interactionテストを行った。マウスというのは新しいもの(マウス)に興味を持って近づくので、その程度が高い/低いで、social interaction(社会相互性...社交性と言い換えていいか)を判断する。著者たちは、CDSを経た後でも社交性が保てたマウス(unsusceptible; 厳しいストレスに負けなかった強い奴らだ)と、CDSによって社交性の失せたマウス(susceptible; 自分を攻撃した奴と見かけの変わらない奴に今度は曝されるので、そりゃぁ嫌にもなるわ...)とに分けている。
 従って、CDSという慢性的なストレスに曝された群が2つと、CDSをせずにいたコントロール群という、3群がこの研究の解析対象である。
 
 さて、結果はといえば、susceptibleなマウスで、NAcニューロン膜表面におけるNMDA受容体サブユニットのNR2Bの発現が低下しており、低頻度刺激に対する可塑的な変化(長期減弱)も弱まっていたとのこと。そして、その変化は、抗うつ薬であるFluoxetine(いわゆるプロザックです)で回復可能であったと。尚、unsusceptibleなマウスでは同様の変化は見られなかった。

 そんなわけで、うつ病病態におけるNAcを含んだ、グルタミン酸神経系の果たしうる役割が示唆され、今後の薬物ターゲットとして有望になっていくのかどうか。
この研究では、同じ慢性ストレスに対する非常に強い個体と弱い個体とを分けている点に面白さがある。実際に人間でも、ストレスに強い人、弱い人がいるわけで、その違いの背景に何があるのか、という点についてこういった研究手法が使われる点、個人的には興味深かった。

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