MRIの中でうつ病を治そう

Real-Time Self-Regulation of Emotion Networks in Patients with Depression
Linden DE, Habes I, Johnston SJ, Linden S, Tatineni R, Subramanian L, Sorger B, Healy D, Goebel R.
PLoS One. 2012;7(6):e38115. doi: 10.1371/journal.pone.0038115. Epub 2012 Jun 4.


脳の画像研究といえば、観察による病態解明が主体である。

しかし近年、画像化技術を疾患への介入（治療）に活かそうという流れが現れて、注目を集めている。

本研究はその王道とも言えるもの。うつ病の患者にfMRIを用いたNeurofeedbackを行い、なんと症状を改善させたという報告である。


Neurofeedbackとは、脳の活動を電気活動（脳波）や脳血流（fMRI、NIRS）などのリアルタイム解析に適した方法で捉え、活動状況をリアルタイムに被験者に返すことである。被験者は自身の脳活動を観察し、その活動の強さを随意的にコントロールできるようになる。

多くのNeurofeedback研究で、被験者はすぐに装置に慣れ、数分後には上手にコントロールできるようになるとある。

まるでテレビゲームのコントローラを初めて持った人が、画面のキャラクタが自分の指の通りに動くのを見ているうちに、操作になれていくようなものだろうか。指を動かすか否かの差はあれど、脳の活動を操作する点はNeurofeedbackと共通であろう。

筆者らはまず、うつ病患者を2群に分け、Neurofeedback群とImagery群とした。
Neurofeedback群にはNeurofeedbackを含んだMRI撮影を、1週間おきに4回実施した。

実際のneurofeedbackの手順に先立って、単に画像を見ながらfMRI撮像を行うlocalizer scanというのを実施している。 [positiveな画像を見ているとき - neutral画像のとき]という脳活動の差をとって、positiveなことを考えているときの脳領域を得た。この領域をseedとして、その後のneurofeedbackを行っていくのである。

続いてのNeurofeedback scanでは、2秒ごとに得られるMRI画像をすぐさま簡易解析し、その結果を視覚的に、リアルタイムに患者に提示している。脳全体のうちで特にseed領域の活動を、それに連動して上下するバー（棒グラフのようなもの）に表し、被験者に見せた。患者は自分の脳活動をリアルタイム（実際は約2秒遅れ）で見ながら、バーを上げるために何を考えていたらいいだろうか、こうしてみようか、と思考実験するのである。

バーを上げる作業を20秒間続けて、バーが表示されない20秒間の休憩をとる、というサイクルを約21分間行った。
患者はすぐさまこの「脳活動の操作」に慣れることができた。

そうしてこの1か月間の実験の、最初と最後に行った症状評価尺度を比べると、Neurofeedback群患者のうつ病尺度は有意に低下していた。

一方のImagery群は、MRIに入らない以外は、まったく同じような思考実験を行っている。しかし、うつ病尺度は1か月後も横這いであった。

Neurofeedback中に活動していた領域は、seedで選択した領域と重複していて、内側前頭前野、前帯状回、島皮質など、情動制御に関わると知られている領域であった。
Neurofeedback群の患者がNeurofeedback作業中に何をしていたかと問われたとき、Positiveな状況を考えていた、positiveな画像を思い浮かべたなどと回答したという。

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Positiveな状況・画像の想起が、Neurofeedback scanにおいても、seedとされる領域の活動を上下するというのは予定どおりである。しかしその行為がうつ症状を改善する、という理由に考察が乏しい印象であった。

筆者らも述べているが（本ブログ著者が先日お会いしたNeurofeedback研究者もぼやいていたが）、Neurofeedbackによる治療的効果はプラセボかもしれない。つまり、「物々しいMRI装置に入って科学っぽいことをする」という強烈な経験によるプラセボ効果かもしれないのである。これを否定するには、RCTデザインや、適切なsham設定が必要になるだろう。

ちなみに、本ブログでかつて紹介した論文も、Neurofeedbackである。

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Photos: Summer resort in Karuizawa, Nagano, Japan