2012年4月16日月曜日

前頭葉機能をtDCSで強化する


Facilitation of probabilistic classification learning by transcranial direct current stimulation of the prefrontal cortex in the human
Tamás Z et al.,
Neuropsychologia 2004;42(1):113-7.

前頭葉課題を使った学習が、tDCS(Transcranial Direct Current Stimulation; 経頭蓋直流電気刺激)を左前頭前野に行うことで促進されるという内容。

やや古いが、tDCSが前頭葉課題学習を促進させる内容として結果がきれいなので紹介した。

tDCSがなんぞやというと、0.5mA~2mAほどの直流電気刺激を、頭皮上に与えることで、その直下の大脳皮質を刺激するというもの。
原理や手技的にはとても簡単なため、実は歴史は古い。

昨年のNature Digest 7月号に簡単な特集があったが、それによると、再び注目を集めたのは、1990年にPrioriらが行った実験結果を、実に1998年になってようやく認められ出版されてからのようだ。


Priori A et al., 1998. Neuroreport


被験者の大脳運動皮質を0.5mAの直流で7秒間刺激し、その後、TMSの短いバーストで同じ脳領域を刺激した。もしtDCSによってニューロンの反応性が高まるなら、TMS刺激に反応するニューロンの数が、tDCSで刺激しない場合よりも多くなるだろうと考えたのである。実際、そのとおりだった。短い直流パルスを1回受けた被験者では、TMSに対する反応が大きくなった。


同じような脳刺激法として、TMS(Transcranial Magnetic Stimulation; 経頭蓋磁気刺激)を思い浮かべる人も多いかもしれない。

両者の違いを簡単に述べる。

tDCSが電気刺激を与え、TMSの方は磁気刺激を与える。

実用上の利点として、tDCSはTMSに比べて安価で(コスト的に購入機械の値段は1/4くらいだ。自作すればもっと安い)、被験者に負担が少なく(やっている間痛くない)、持ち運びが容易である。

つまり、安い、優しい、ポータブル

欠点としては、TMSは目標部位に焦点を絞って刺激を与えられるが、tDCSは大きめの電極(5cmx3cm程度)を貼り付けて、直下の皮質をぼやっと対象にする点で、空間解像度が低い。
とはいえ、TMSが目的の部位に刺激を与えるために厳密にはやや大げさな装置を必要とするのに対して、tDCSはただ電極貼り付けるだけというお手軽さがあるので、施行者にも被験者にも優しい。


tDCSの最も大きな特徴は、極性による効果の違いにある。

Anodeと呼ばれる陽極側を目的部位に置けば直下の皮質の興奮が促進され、cathode(陰極側)を置けば皮質の興奮が抑制されるという。

今回とりあげた研究は、下記6条件で、前頭葉課題を施行する。

①左前頭前野 a)anode b)cathode c)sham(偽刺激)
②視覚野    a)anode b)cathode c)sham

結果、左前頭前野刺激でのみ、shamに比べてanodeで成績の向上を、cathodeで成績の低下を認めた

ミソは、2部位を使うことで、関係ない部位への刺激では効果は無いこと、それぞれで3条件行うことで、きちんとどういう刺激が課題に効果があるのかを示していること。
一部の研究では、単部位にanodeとshamだけで結果を出しているので、それでは厳密とは言えない。

XXXXX

ところで、昨今NHKさんでTMSの方はうつ病治療の決定版みたいな感じで紹介されていたが、tDCSはどうなんでしょうか。
それに関してまた今度。






6 件のコメント:

  1. tdcsを自作したいんですがどこで部品を売っていますか??

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    1. 島袋智様、
      コメント有り難うございます。遅くなってすみません。
      tDCSは単なる直流電流による刺激ですから、原理的には自作も簡単なはずですが、自作をここでお勧めするわけにはいきません。
      もし自作をご希望されるのであれば、ご自身の責任で調べてお願いします。

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  2. Prioriの論文を読んだところ「DC刺激後TMSによるMEPは弱くなった」と読めるのですが
    >短い直流パルスを1回受けた被験者では、TMSに対する反応が大きくなった。
    とはどこに記載されているのでしょうか

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    1. コメント有り難うございます。
      blod執筆時は原著を確認していなかったのですが、Nature digestの当該部分を私が一部誤解していたようです。
      1998年の論文のabstractを読む限り、確かにご指摘のように読めます。ミソは、DCとTMSとの相互作用だとは思いますが...。

      Prioriらは、1993年の論文で、motor cortexをDC,TMS双方で刺激して、前頸骨筋のMEPを調べています。
      http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7683603
      もっともabstractを読むだけですと、DC,TMS双方で、同じ潜時での前頸骨筋のMEPを誘発させたことは伺えますが、DCがTMSの反応を増強させたことは(私の読み方が正しければ)abstractからはわかりません。
      大変申し訳ありませんが、まだ原著を確認していないので、それが確認出来ればまた補足を書こうと思います。

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  3. TDCSを使用したことがありますが、1mAでも結構ビリビリきて怖いですね。。。

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  4. この度、foc.usを学習目的で購入しました。頭が締め付けられる気がしてあまりよい使用感とは言えませんが、実感として、効果はあると思います。

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