2012年4月27日金曜日

体外離脱体験は突然に

いつもの抄読会のあと、Unknownさんが取り出したのはヘッドマウントディスプレイとUSBウェブカメラ。

「今日はこれで例の記事の実験を体験してみましょう」とのこと。

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Nature ダイジェストに載って、面白そうなのでやってみようということになった例の記事とはこちら。
Out-of-body experience: Master of illusion.
Yong E.
Nature. 2011 Dec 7;480(7376):168-70.

上の記事はあくまで研究紹介である。この中でサイエンスライターのYongがストックホルムの神経科学者Ehrssonらの成果を紹介していた。

我々が研究室で試した実験は、代表的なこちらの論文に載ったもの。
The experimental induction of out-of-body experiences.
Ehrsson HH.
Science. 2007 Aug 24;317(5841):1048.

そしてこの実験を端的に言えば、「体外(幽体)離脱体験」である。

体外離脱体験とは「自分の身体を外から見ること」である。
決してオカルトではなく、脳卒中、てんかん、薬物中毒などにまれに見られる症状らしい。

筆者はこの現象を、実験室内で健常者に引き起こすことに成功したのである。

実験はシンプルかつ巧妙である。
被験者はヘッドマウントディスプレイを装着する。ディスプレイには、被験者の背後に置かれたカメラからの眺め(被験者自身の後ろ姿)が映し出されている。
この時点ではカメラで背中を見ている印象である。

続いて実験者が、片手に持った棒で被験者の胸元を軽く突き、それと同じタイミングで、もう片方の手に持った棒をカメラの下あたりに向かって動かす。
そうすると、被験者は、カメラの下に迫ってくる棒を見て、棒が自分の胸に当たるのを感じる。

やがて被験者は、自分の意識が「新たな自分(=カメラ)」の場所に存在し、自分の身体を背後から見ているのだと、鮮明に感じるようになる。

こうして被験者に幻覚状態を確立した後、「新たな被験者」の胸に向かってハンマーをぶつけるように動かすことで、被験者は発汗反応を示した。すなわちこの幻覚が恐怖情動を惹起するということがわかった。

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我々も同様にヘッドマウントディスプレイにリアルタイム映像を流して、体外に置いたカメラに向かってあれこれやってみた。

カメラを、被験者とは別の人の目のあたりに持ち、自分の胸を見るようにうつむかせた。
そして胸のあたりをくすぐると、ディスプレイを見ているだけの被験者も、前胸部にもやもや感が得られた。

それからカメラの人の胸に向かってナイフを刺すように動かすと、被験者は「わっ!」と叫んで身じろぎし、その後に「ぞっとした」と報告した。
抄読会に参加したほぼ全員が、同様の感覚を得ることができた。

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Photo: Bottles of malt whiskies, Yamazaki Distillery, Osaka, Japan

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