2012年4月3日火曜日

植物状態なのに脳内では返事できる患者

Cruse D, Chennu S, Chatelle C, Bekinschtein TA, Fernandez-Espejo D, Pickard JD, Laureys S, Owen AM.

Lancet. 2011 Dec 17;378(9809):2088-94.

以前ブログに載せたこちらの記事のチームによる報告。
大まかに述べると、植物状態の患者に音声による指示を与え、脳波で反応がとれたというものである。

植物状態は、大脳の認知機能などは絶たれているが、脳幹機能(呼吸・循環ほか)は保たれているというもの。遷延性意識障害とも呼ばれる。
「脳幹を含む全脳機能の不可逆的な停止」という脳死とは異なり、自発呼吸ができるので一見するとただ横になっている人のようにみえる。

重度の意識障害の患者を植物状態と診断するとき、体動で反応できないことなどを基準にする。 しかし最近の脳機能画像的研究により、そうした患者のうちに脳内では反応が出来ていることを示すことができるとわかってきた。

この知見を発展させて、臨床上ベッドサイドで使いやすいように脳波を使おうというのがこの研究。
まず研究者らは意識障害を診断する専門チームを編成し、植物状態だと診断された患者16名に以下の実験を行った。
植物状態に至った理由は低酸素、脳卒中、頭部外傷のいずれかだった。

患者に音声従命課題をさせた。
この課題ではまず、「ブザーが鳴ったら右手を握ることを考えてください」または「ブザーが鳴ったら両方のつま先を動かすことを考えてください」と音声で指示した。
それから、ランダムな間隔でブザー音を繰り返し聞かせた。

患者は脳波計測を受けながら音声従命課題を遂行した。
脳波の帯域パワー解析を課題に組み合わせたのが本研究の新しいところ。
手の運動と同期して、運動関連脳領域でμ帯とβ帯の減衰などの反応脳波が得られることがわかっている。

さてその結果、16名の患者のうち3名でこの反応が見られたことから、「厳密に植物状態と診断される患者の中に、脳波上の反応を提示する能力が残った者がいる」と示された。

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本研究でわかることは、患者が音声指示に反応できることだけではなく、指示を聞いて理解できたということも含んでいる。

この研究の良い所は、脳波を用いた点だろう。
脳波はfMRIに比べると高い時間分解能を持ち、軽量なデータ量ゆえにリアルタイム解析型Brain-Machine Interfaceの夢が広がるからだ。
すなわち、植物状態患者から「臨床的に」Yes/Noの反応をとれる可能性が高まったことになる。
たとえば「右手を握ったときの反応をすればYes、左手ならNo」とすれば、患者自身の意向に沿った医療を与えることが出来るようになるかもしれない。

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以下は研究室でのとりとめない余談。

「自分が植物状態になったら尊厳死を期待してしまう」という意見が出た。
しかし植物状態患者は、ALS患者のように意識ははっきりしたまま動けなくなるのではない。
むしろ精神疾患・発達障害のように、その意識レベルや判断能力が、法的にどの程度責任を負えるのか問題になるだろう。
そうなったとき、果たして植物状態患者の意向に沿った尊厳死は認められるだろうか。

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Photo: Ideal Japanese spring
- Sakura - cherry blossoms
- Fresh students (after attendance at the entrance ceremony with their parents)

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