Kim JH, Li S, Richardson R.
Cereb Cortex. 2011 Mar;21(3):530-8.思春期(Adolescence)は多感な時期であり、うつ病や自殺等の予後に対する個人差が大きい時期でもある。
近年ではMRIやSPECTといった脳を撮像する技術と動物実験の目覚ましい発展により、以下の2つのことが示唆されるようになった。
1.前頭前野が思春期に劇的な変化を起こすこと。
2. その前頭前野の変化が思春期の多感性や精神疾患の予後に影響を及ぼすこと。
そこで、成長過程と長期的な恐怖記憶消去の関係についてラットを用いて調べてみようというのがこの研究。
方法は主に3/1の記事に記載してある恐怖条件づけ課題を使用。
初日に恐怖条件づけを行い、
次の日に恐怖記憶を抑えるためのトレーニング(Fear extinction)を行う。
その翌日に恐怖記憶のテストを行っている。
思春期のラットでは思春期前や大人のラットに比べて恐怖記憶を長期間抑えることが困難であることが分かった。
そこでFear extinction後の脳内分子について調べてみると、思春期では他の時期に比べて注1下前頭前野内の注2MAPKの活性化が低いことが分かった。
一方、Fear extinctionの回数を増やすことで思春期のラットでも恐怖記憶が思春期前や大人のラットと同じレベルにまで抑えられた。
この条件下では、Fear extinction後の下前頭前野内のMAPKの活性化も高まっていた。
著者らは思春期というのは前頭前野の使用効率が低い時期であり、それが原因で恐怖記憶をうまく長期的に抑えることができなかったのではないか?と考えているようだ。
注1下前頭前野は恐怖記憶の抑制に特に重要と考えられている脳領域である。
注2Mitogen-activated protein kinaseの略であり、この論文のIntroでFear extinction後に活性化するリン酸化酵素として紹介されている。
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この論文は思春期研究入門者にとって面白い論文がいくつか引用されていたので紹介した。
この研究の他にも成長過程の恐怖記憶を調べている研究はいくつか存在するが、どの研究でも思春期では大人と異なった挙動を示すのが興味深い。
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Photo: Okinawa, Japan
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