2011年8月29日月曜日

TMSの作用機序と確率共鳴

Stochastic Resonance Effects Reveal the Neural Mechanisms of Transcranial Magnetic Stimulation.
Schwarzkopf DS, Silvanto J, Rees G
The Journal of Neuroscience, 2011, 31(9): 3143–3147

経頭蓋磁気刺激(TMS)の神経作用機序についての論文。
TMSは作用機序がいまいち判っていないので調べました、とのこと。
判読困難な視覚課題遂行中にTMSを与えたところ、課題の成功率が変化するという現象を発見し、

確率共鳴Stochastic resonanceの概念で解釈できたという報告。

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確率共鳴とは、閾値下のシグナルが、ノイズ印可によって検出可能になる現象である。
ノイズがあることでシグナルが検出可能になるということは、ノイズの大きさを調整できればシグナルの検出率を変えられるということでもある。
認知心理学における確率共鳴の例は、ぼんやりor疎らなノイズのみに見える意味不明の画像が、ノイズ増加に伴って、何を描いたものか判読可能になるというもの。
具体例は紹介論文のFigure 1.、英語版Wikipedia(本投稿時点)や、「確率共鳴」「Stochastic resonance」で画像検索するといろいろ見られる。

神経細胞は膜電位の変化が閾値に達すると発火するという特性があるために、本現象が現れるとされている。
神経科学における確率共鳴とは、閾値下の入力(シグナル)が起きているとき、同じ神経に膜電位ノイズを加えることでシグナルを神経発火として捉えるというもの。
確率共鳴については英語版Wikipediaのほか、こちらのサイトでシミュレートできる。

ノイズが強すぎると、閾値下シグナルの有無と無関係にデータ全体が閾値上に達してしまうので、また検出率が低下するという特徴もある。

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本報告で使われた課題は、多数のドットのうちいくつかが同じ方向に向かって動いていて、その向きを判定するという運動視覚課題である。
被験者毎に正答率が一定になるよう、同方向に動くドットの数を調整してある。
TMSは閃光視覚閾値下で3段階の強度、および偽刺激を作成した。
ごく短時間だけ現れる視覚課題に合わせて、V1/MT野に単発TMSが行われた。

その結果、低強度のTMS時に課題成績が向上した。

筆者らはこの現象について、運動の視覚情報(シグナル、正答率低い=閾値下)に、TMSによる神経ノイズが印可されたことで閾値上(=判読可能=正答率が向上)になった、と解釈した。


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もともとは確率共鳴を見ようと思って始めた研究なんだろうか?
想像だけどTMSの視覚系への影響を見るためにやった実験で、よくわからない成績向上があったから確率共鳴にこじつけたのではあるまいか?

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今回も抄読又聞きで紹介。
勉強になるなあ。

確率共鳴の概念は、1981年に氷河期の周期性を説明するために提案されたとか。
へえー

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Photo:
A spring day of Miami, FL, US
(2011 International Conference on Eating Disorders: 学会発表のため出席)

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