2011年8月5日金曜日

禁煙できる人を脳活動の違いで見抜く


Chua HF, Ho SS, Jasinska AJ, Polk TA, Welsh RC, Liberzon I, Strecher VJ.
Nature Neuroscience 2011 14(4): 426-7

シンプルな内容ながら、脳活動により4か月後の行動を予測という観点が成立する点で興味深い報告。3 sessions + 1 phone interviewで行われた。

1.まずAssessment sessionで、現在喫煙中で禁煙したいと思っている91人の被験者それぞれを面接。生活環境、家族との関係、禁煙に対する考え方などをインタビューする。
目的はTailored messagesを作成するため。

Tailored cessation messages:インタビューに基づいて作成する。
家族もあなたの禁煙を望んでいる、あなたは嫌なことがあるとつい吸ってしまう、など

それとは別にUntailoredも作成する。
Untailored cessation messages:保健福祉系のパンフレット等から引用したもの。
喫煙は癌のリスクを増やす、心臓病のリスクを増やす、など

2.つづくfMRI sessionでは、同じ被験者に、特定の文章を繰り返し提示し、そのときの脳活動を記録する。
Messages task:Assessment sessionで作成した文章を提示。[Tailored]-[Untailored]の差分の脳活動がSelf-related processingと同じ部位かどうかを見たい。
Self-appraisal task:人の状態を表すいろんな形容詞を提示し、被験者はそれらが自分に当てはまるかをYes/Noで選ぶ。Self-related processingに関わる脳領域を決定するための課題。

3.Intervention session
禁煙治療に相当するsession。Web-based tailored smoking-cessation programを実施させた。併せてニコチンパッチも処方。

4.Phone interview
4か月後に被験者に電話をかけ、禁煙できたかどうかを聞いた。この時点で約半数が禁煙に成功していた。

結果はシンプル:禁煙に成功した被験者では、その4か月前のfMRI sessionにおいてUntailored messagesを見ているときの背内側前頭前野MPFCの活動が、禁煙に失敗した被験者よりも強い活動を示した。(odds ratio = 1.36)

ようするに、同様の文章に対して個々人がどれくらい自省的に捉えているかは、数値化したり他者と比較したりが困難であるが、脳活動の強さという形である程度反映されていたことが分かった。そしてそれが行動変容に繋がる可能性も示唆された。

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脳活動が行動を予測する、という研究は楽しい。しかし注意しないといけないのは、行動予測したと言ってもその予測精度は高くないということだ。オッズ比1.36というのは、MPFCの活動が高いと判断される被験者の禁煙成功率は、低い被験者の1.36倍であるに過ぎないということ。
「行動を予測」という言葉が強すぎて誤解を招きそうだ。

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Photo:
Hydrangea with Buddha, Hase Kannon Temple, Kamakura, Japan

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