学会に出席した後は、そこで得た情報を研究室内で共有すべく、各自の興味のある発表について、簡単なレビューを行うようにしている。
今回は、2012年10月にアメリカ・ニューオリンズで開催された、世界最大の神経科学系学術集会、Neuroscience2012のレビュー。
学会には論文化前の情報も多いので、内容のレビューはせず、各分野のレビューに留める。
OASIS(SfN学会演題の検索サイト)を活用した。
fMRI、NIRS
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過去4年分のfMRIとNIRS関連の演題数を調べた。
この2つの技術は、脳血流動態を利用した脳機能画像研究という共通点があり、弊研究室でも使っている。
fMRIはおおむね横這い。NIRSはその1/20ほどの演題数で、さらに減少傾向であった。
演題を詳しく見ると、fMRIはポスター発表が中心である。
MinisymposiaでfMRI演題が0というのは、最近の画像研究の発展におけるfMRIの多大なpresenceからすれば不思議な感じがする。
おそらくfMRIあたりになると、もはや脳科学の重要なインフラと化していて、演題名にわざわざ入れないという場合も多いのだろう。
NIRSの分野はポスターのみで、日本の国内学会における発表の賑わい方に比べても、ずいぶん寂しい状況である。
もともと少ない演題数がさらに年々減少しているのも寂しい。
2011年にNatureにより、精神科分野でのNIRS使用に懐疑的な記事があったように、どうも北米でのNIRS技術の評価は下がっているのではないだろうか。
NIRSの測定原理、アーティファクト除去技術、解析方法についての研究発表が、国内学会に比べてNeuroscience2012で少ないことに危機感を感じた。
こういう分野を進展していかないとNIRSの信頼性が向上せず、Natureの指摘のような批判をいつまでも払拭できないからだ。
「用途」研究がガラパゴス化しつつあるだけなら方法論研究の成熟によって復権もあり得る。
しかし、論文や学会の査読が厳しくなるなどして、方法論自体が研究する価値無しと判断されるようになってしまえば、NIRS研究全体が無価値化する危険性を秘めている。
残念ながらNIRSは医学・心理学系の研究者が中心的ユーザであるため、煩雑な計算理論を行うのが苦手で、ごく少数の(日本の)理工系研究者と(日本の)メーカーの研鑽を世界中がひたすら待っているというのが現状である。
この問題は長引きそうである。
いや、長引いてくれればまだ幸いなのかもしれない。
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社会性行動と恐怖記憶
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SfNの過去3年の演題数の変化を、社会性行動と恐怖記憶に着目して調べた。
Social interactionの演題数は右肩上がりで、これは日本の神経科学大会でも同様の傾向があった。
Oxytocinは社会性行動に重要な役割を果たす分子だが、自閉症などの疾患に関わることもあり、今年特に演題数が増えていた。
社会性、つまり他者とのコミュニケーションは、普段の会話だけでなく、発達障害やいじめといった、最近の精神・神経科学界におけるホットなテーマに結びつくものなので、関連する研究はまだまだ増えそうな気がする。
恐怖記憶では、記憶の段階ごとに演題数を調べてみた。
Acquisition(獲得)、Consolidation(固定)、Retrieval(想起)、Reconsolidation(再固定)、Extinction(消去)をキーワードでみると、AcquisitionとExtinctionが人気なのは3年間変わらないもよう。
やはり精神疾患の発症と治癒・治療に関わると考えられているせいだろうか。
PTSDの治療に役立つということで、我々の研究室でもExtinctionの促進は大きなテーマである。
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