Grundey J, Thirugnanasambandam N, Kaminsky K, Drees A, Skwirba AC, Lang N, Paulus W, Nitsche MA.
J Neurosci. 2012; 32(12): 4156-62.

実際にニコチンを非喫煙者に与えると、一時的な注意力、作業記憶などの向上が見られる。また、喫煙者に禁煙させるとそれらが増悪し、ニコチンを与えると能力が改善するという。
これらの知識は、一見するとニコチンは良い作用を及ぼしていると見えそうだが、ニコチンの依存性に寄与するメカニズムではないかと考えられてもいる。
本研究ではそのメカニズムを解明するために、禁煙させた喫煙常習者(以下、愛煙家とする)の神経可塑性に対するニコチンの影響を、2種類の方法で検討している。
10本/日以上、10年以上の喫煙歴をもち、Fagerstrom scaleというタバコ依存スコアで1点以上(「わずかに依存」以上)の愛煙家たちを対象にした。
半日の禁煙状態にしたあとにニコチンパッチまたは偽薬パッチを貼らせた。
血中ニコチン濃度が安定した頃に、神経可塑性を変化させる刺激2種×2条件のいずれかを行った。
刺激は
Paired associative stimulation (PAS): PAS25(興奮性) PAS10(抑制性)
transcranial direct current stimulation (tDCS): Anodal(興奮性) Cathodal(抑制性)
評価指標は、左の一次運動野を単発の経頭蓋磁気刺激TMSで刺激して得られる右小指外転筋の誘発筋電(MEP)の振幅とした。
その結果、
PAS25のMEP増強作用は、Placeboだと見られないが、ニコチンがあると120分続いて見られた。
PAS10のMEP減弱作用は、placeboだと直ちに見られるが、ニコチンだと遅延して・かつ長く(翌朝まで)見られた。
Anodal tDCSのMEP増強作用は、placeboだと見られないが、ニコチンがあると240分まで続いた。
Cathodal tDCSのMEP減弱作用は、placeboだと60分まで見られたが、ニコチンだと抑制された。
以上の結果を、筆者らの先行論文の結果と組み合わせて再解析したところ、非喫煙者と愛煙家とで以下の違いが見られた。
非喫煙者は、anodal tDCSとPAS25で興奮性の神経可塑性変化がニコチン無しで起きた。
愛煙家は、ニコチン無しだとこれらの興奮性の神経可塑性変化は見られなかった。
非喫煙者にニコチンを与えるとanodal tDCSによる可塑性変化は弱まったが、
禁煙中の愛煙家にニコチンを与えるとこの変化がちゃんと起きるようになった。
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PASとtDCSはどちらも刺激方法の微調整によって、長期増強または長期減弱様の神経可塑性変化を起こすことができる。
2種の刺激法の違いは、得られる神経可塑性変化がfocalかnonfocalかということである。
筆者らの先行論文ではこれを利用して、可塑性変化の受容体特異性に言及している。
結果はかなりややこしいが、誤解を恐れずおおざっぱにまとめると、「禁煙中の愛煙家は神経可塑性変化が起きにくくなっており、ニコチンを補充すると元通り(ニコチン無しの非喫煙者なみ)になる」ということか。
愛煙家には「禁煙中は注意散漫になる、ボーッとする、仕事の能率が落ちる」という体感があるらしい。この結果をみるとそれは確かなことだろうし、依存を強くする動機付けになってしまうだろう。
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Photos: Streetscape and Fine snacks, Jiufen, Taiwan
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