2012年5月27日日曜日

喫煙は脳BOLD信号を増強させる

Friedman L, Turner JA, Stern H, Mathalon DH, Trondsen LC, Potkin SG.
Neuroimage. 2008 Apr 15;40(3):1181-94.


長期間の喫煙がBOLD信号に与える影響についての報告。

脳機能を画像的に評価する方法で、いま一番使われているのは機能的MRI(functional MRI, fMRI)である。
この手法は、組織のヘモグロビン(血色素)濃度の変動を調べることで、直接観察しにくいヒトの脳活動を間接的に評価する。
その理論的背景には、神経活動は近傍の組織の血流変動を伴うという原則がある。指を動かせば指の運動を司る領域で、画像を注視すれば視覚に関連した領域で、それぞれ神経細胞が最寄りの血管を拡張させて血流を増やすので、組織中ヘモグロビン濃度の変化をもたらすとされている。

喫煙により吸入される多くの化学物質は、血管障害というかたちで全身に影響をもたらし、それは脳内血管とて例外ではない。
ヘビースモーカーでは血管が硬化性変化を起こすことにより、臨床的に問題になることがある。

では、ヘビースモーカーと非喫煙者とが混在した状態でfMRI研究を行うことに問題はないのか、と問いかけるのがこの論文。

被験者は統合失調症患者と健常者、それぞれヘビースモーカーと非喫煙者が半数ずつ、の計4群。
fMRI撮像下に、視覚課題と息留め課題の2つを実施させた。

その結果、喫煙者群の脳では非喫煙者に較べて、視覚課題で22%、息留め課題で50%も大きい信号を発することがわかった。
また患者群では健常群に較べて、息留め課題で40%強い信号を発した。

精神疾患の脳機能画像研究では、患者群vs.健常群という比較をしばしば行われている。
しかし、たいていの精神疾患において喫煙率は市井よりずっと高いので、患者群vs.健常群という構図は、そのまま高度喫煙群vs.低度喫煙群になってしまうのである。
もしfMRIを利用する際には、喫煙者の割合も一致させておく必要があるでしょう、と筆者らは指摘している。

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こんなのを見つけてしまった。
精神疾患のfMRI論文で喫煙率に言及しているものは実際のところ少ない。
自分が研究プランを立てるときにもできるだけ注意してみたい。

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Photos: National Chiang Kai-shek Memorial Hall, Taipei, Taiwan

1 件のコメント:

  1. いつからそうなるんでしょうね。

    非喫煙者にニコチンパッチを貼ると、さらに可塑性は高まるのでしょうか。

    実を言うと、そうなる可能性は充分あるはずで、特にニコチンによる認知機能への良い影響は、α7ニコチン受容体を介しているようなのですが、薬剤としても有望視されています。

    α7ニコチン受容体アゴニストを飲んだ上でtDCSをDLPFCや小脳にかけることを継続すると、例えば楽器演奏のテクニックなんかが上達しやすいのではないか…。

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