2012年7月13日金曜日

BDNF遺伝子多型が運動野の興奮性に影響する

Differential modulation of motor cortex excitability in BDNF Met allele carriers following experimentally induced and use-dependent plasticity
Cirillo J, Hughes J, Ridding M, Thomas PQ, Semmler JG
Eur J Neurosci. 2012

脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor; BDNF)は中枢神経系内に多く存在する成長因子である。BDNFは神経可塑性に重要な役割を果たすことが知られている。これまでに、BDNFのアミノ酸配列の中にあるバリン(Val)がメチオニン(Met)に変わっている「一塩基多型(Single nucleotide Polymorphism)」は、ヒトの海馬機能の低下、精神疾患の脆弱性、脳損傷後の神経可塑性に影響を与えることが指摘されてきた。

脳損傷後のリハビリテーションでは、運動学習により一次運動野を含む様々な脳領域で可塑的な変化が生じる。このことから、BDNFの遺伝子型が一次運動野における可塑性に与える影響は重要なテーマといえる。

本研究では、ヒトのBDNFの3種類の遺伝子型(①Val/Val ②Val/Met ③Met/Met)で群分けし、各群におけるPaired associative stimulation(PAS)と運動学習前後の運動誘発電位(Mortor evoked potentials; MEP)の変化を検討している。


介入方法は以下の3つ
Ⅰ Paired associative stimulation (PAS): PAS25
Ⅱ Simple ballistic task: 示指外転を素早く行う
Ⅲ Complex Visuomotor Task: 示指に付けられたポテンショメータでモニターの線をなぞる

評価指標は、左の一次運動野を単発の経頭蓋磁気刺激TMSで刺激して得られる右第一背側骨間筋の(MEP)の振幅とした。

その結果、
Ⅰ PAS後Val/Valの群ではMEPが増大したが、Val/Met、Met/MetではMEP変化なかった。
Ⅱ Simple ballistic taskはいずれの群でも運動を繰り返し行うことで、素早くなっていた(運動学習が成立していた)。MEPはいずれの群でも増大した。
Ⅲ Complex Visuomotor Taskはいずれの群でも運動を繰り返し行うことで、トラッキングがうまくなっていた(運動学習が成立していた)。しかし、MEPはVal/Valの群では増大し、Val/Metの群では変化なく、Met/Metの群では減少していた。

以上の結果は、一次運動野の興奮性を変化させる要因として、BDNFの遺伝子型が強く影響することを明らかにした。
特に複雑な運動を学習した時に反対の応答を示した(実験Ⅲ)。このBDNFの遺伝子型による神経可塑性の差異は、脳損傷からの機能回復とそのメカニズムに対し影響を及ぼす可能性がある。

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結果は比較的シンプルでした。
Reference見ると可塑性が起こりやすい要因や条件が多々あるそうな。。。(全部コントロールできるのか・・・・)

この研究でBDNF Met/Met群は磁気刺激をして誘発されるMEPは低下していた。だからLTD-like processと考察していた。しかし、運動学習は成立していることを考えるといろんな可能性がありそうです。

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Photo: Cherry fruits from Fukushima, Japan

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