2012年9月26日水曜日

第35回神経科学大会の報告~恐怖、性差~


今回の抄読会は神経科学大会の発表についての報告会であったので、その内容を抄録から逸脱しない範囲で紹介したいと思う。
キーワードは、『恐怖』である。オンライン検索システムであるRASTに『fear』と入力した際に該当した4年間分の発表数をまとめた(右図)。どうやら、ここ3年間で恐怖に関する発表数に目立った変化はないようだ。



■横浜市立大学 生理学研究室
P3-e33 Light induced loss of function technology for synaptic AMPA receptors towards an artificial memory erasure
記憶の形成に必要とされているAMPA受容体の1(GluR1)の機能を光操作して自在に不活化する技術を開発し、報告している。光を使うことでシナプス上のGluR1の不活化を細かい時間で調節することが可能であり、今後この技術を応用した研究が楽しみである。

■東京農業大学 動物分子生物学研究室
P2-j08 Roles of protein degradation-mediated signal transduction pathway in regulation of inhibitory avoidance memory after retrieval
記憶を長期的に保存する際にタンパク質の合成が必要とされ、多くの研究者がタンパク質の合成メカニズムに注目してきた。一方、近年タンパク質の分解もまた記憶の保存に大切だということが報告された。今回の発表では海馬、扁桃体、前頭前野の3つの領域でタンパク質の分解阻害剤による行動への影響や分解の指標タンパク質の変動を調べ、恐怖記憶・消去記憶とタンパク質の分解との関係について報告している。先行研究と一致する結果も出ていたので信憑性も高く、今後の発表も注目していきたい。


もう一つのキーワードは『性差』である。今年は性差に関する発表が例年よりも少ない(右図)。一方、キーワードを『female』にすると2010年が64演題、2011年が72演題、2012年が64演題であまり変化はない。どうやらメスに関する発表はあるものの、性差となると少なくなっているようだ。

■東京大学 生体情報科学研究室
P2-h03 Sex differences in steroidogenic systems of the hippocampus
 海馬の性ステロイドについて研究されているラボで、海馬内のテストステロンやプロゲステロン、エストラジオール(E2)には明確な性差があることを報告している。さらに、面白いことにE2は血中でこそメスの方が高濃度であるが、海馬となるとオスの方が高い。一方、性ステロイドの合成酵素やエストロゲン受容体αやアンドロゲン受容体の海馬内発現量には性差がない。海馬内性ステロイドは情動や記憶の調節を行っており、その量に明確な性差があるというのは恐怖記憶の性差を調べる上で非常に興味深い。


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今年の神経科学大会ではジョブマッチングや若手向けの教育講演などがあり、若手研究者育成に力を入れているのを感じられた大会だった。学会では新たな人脈ができたり、頑張っている同世代をみてやる気をもらったりで非常に有意義なものだった。来年は6月に大会が開かれるようで、演題締切が例年よりだいぶ早いことが予想され、研究遂行の起爆剤となってくれそうだ。

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