Recovery of low plasma BDNF over the course of treatment among patients with bulimia nervosa.
Yamada H, Yoshimura C, Nakajima T, Nagata T.
Psychiatry Res. 2012 Mar 16.
過食症患者ではBDNFが低値であるが、行動プログラムによる食行動改善により血中BDNF値も改善されたという研究
Brain-derived neurotriphic factor(BDNF)とは、脳由来神経栄養因子であり、神経細胞の発生や成長、維持、修復に関与し、さらに学習や記憶、情動、摂食、糖代謝などにおいても重要な働きをする分泌タンパク質である。神経由来因子(neurotrophin)とは、神経細胞の発生、成長・維持・再生を促進させる物質の総称であり、これまでにさまざまな栄養因子が同定されている。神経栄養因子として最初に発見されたのは神経成長因子(NGF、1951)であり(発見者Levi-Montalchiniらはノーベル賞受賞、1986)、次いで1982年にNGFと近縁の遺伝子産物として脳由来神経栄養因子(BDNF)がBradeらによって発見された。(Nofujiら、2009)
<摂食との関係>
BDNFとその受容体であるTrkBは、摂食行動の中枢である視床下部にも発現していることが報告されている。(Kernie SG,2000、Nofuji 2009)
人では、食欲、食行動に関与し、心血管代謝の機能障害に繋がるような状態、例えば、アテローム性動脈硬化、2型糖尿病、メタボリックシンドロームなどに関係している。
マウスによる実験では、BDNFノックアウトマウスで、早期から過食と共に顕著な体重増加が認められ、BDNFを直接側脳室に投与することにより、過食は改善し、体重も減少することが報告されている。
遺伝性の肥満では、インシュリン−レプチン耐性の動物モデルで,BDNFの末梢投与で体重と食欲減少、およびグルコース、コレステロール、ノンエステル化遊離脂肪酸レベルが改善した。
臨床では、血中BDNFの低値は、拒食症でも正常体重の過食症患者でも報告されており、うつ病患者では、減少していたBDNFが抗うつ剤の投与で正常化したとの報告もある。鬱症状は過食症患者で共通にみられる症状である。
この研究者らは、不安、鬱症状、病的なボディイメージの歪みなどの特徴的な心理的様相が、BDNF低下を引き起こす主要因となっているのか、単に異常な食行動の結果であるのかどうかという問題が残されているとし、低い血漿BDNFの回復は、うつ、不安、摂食障害を含む心理学的症状の改善と同様に、異常な食行動が改善することで健常者群のレベルまで回復すると仮説を立てた。
研究方法は、16人の外来通院中の過食症患者と10人の健常者の2群でBDNF値、基本的な栄養状態を測定し、心理症状との関係を評価した。このうち7名の患者は、精神科開放病棟に4週間入院し、認知療法をうけ、行動プログラムに従った。そして、プログラム終了後に再度採血を行い、介入の前後で評価した。
結果は、①過食症群と健常者群で、心理的指標のすべて(やせ願望、ボディの不満足感、達成感のなさ、完全主義傾向、不信感、成熟への恐怖等)において、過食症群が有意に高いという結果であった。また、過食症群のBDNF(1.89±1.67ng/ml)は、健常者群(6.57±6.09ng/ml)に比べて有意に低かった。②過食症群で、行動プログラムの前後で測定したBDNFは、介入前は1.74±0.82ng/mlであったが、介入後では、6.03±5.01ng/mlであり、有意な差で上昇が見られた。心理的指標では、すべてにおいて改善傾向であったが、有意差があったのは、やせ願望のみであった。しかし、行動プログラム後に、過食や排出行動(嘔吐や下剤の使用)の回数はゼロとなっていた。
いくつかの研究で、摂食障害に関する症状評価尺度が血清BDNFと有意に関係しているとの報告がある。さらに、大うつ病患者の血清BDNFがSSRI投与で有意に回復したとの報告もあり、今回の結果からも、摂食行動や鬱・不安のコントロールにBDNFは主要な役割を担っているのではないかと示唆された。
また、摂食障害患者のBDNFとBMI(=体重÷身長÷身長)で有意な相関関係があったとの報告がある。しかし、肥満の人は有意に血中BDNFが低いことが報告されており、BDNFと体重や栄養状態との関係は複雑である。
今回の介入で最も変化があったのは、排出行動を含む異常な食行動である。
食行動の改善がBDNF値を上昇させるメカニズムは不明であるが、ラットで、低値のBDNFは過食を引き起こすことが報告されており、肥満の人もBDNFが低いために、常に食べ過ぎているという悪循環を支持できると述べている。
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過食を誘発する低値BDNFの要因が、過食だったとは、、。食べても食べてもまだ食べたい、、の理由が少しわかった。。
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(本記事について編集者・注: 過食症より神経性大食症の方が正式な病名だが、知名度の高い前者を採用した)
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