2012年8月29日水曜日

情動制御のストラテジー

How to Regulate Emotion? Neural Networks for Reappraisal and Distraction
Kanske P, Heissler J, Schonfelder S, Bongers A, Wessa M
Cerebral Cortex 2011;21:1379--1388.

情動Emotionとは、恐怖、不安、喜びなど、快不快さまざまな感情の変化をさす。
不快な情動はストレスになるので、動物は成長の過程で、不快な情動が起きないように制御することを学習する。
臨床心理学分野ではよくその情動制御の方法(上手な考え方)をストラテジーと呼ぶ。


ある不快な写真、たとえば生々しい傷や、動物の死体や、昆虫ののった食品を見たとき、「うわっ嫌なものを見てしまったな」と思うだろう。
そんなときに誰しも無意識に使っている情動制御のうち、主なストラテジーは二通りである。

・ Reappraisal(再評価): 自分に起こった情動をメタ認知的に再評価すること。「なぜ自分は写真で不快になったのか」「これはただの写真なのに」「自分には関係ない」「写真で不快になるなんて無意味だ」といった考え方。
・ Distraction(阻害、気をそらす): 情動を起こしたものとは別の情報に注意を向けること。「そんなことより~を考えなきゃ」と考える。

前者は外部情報を重く受け止めすぎる精神疾患、たとえば不安神経症、うつ病などに対する認知行動療法で、患者に中心的に学ばせる手法である。
また後者の例には、自閉症児が新規な環境にストレスを感じたとき、外部情報入力を絶って、自分の好きなもの(たとえば電車の駅名、算数の問題)を考えるという対処法がある。



先行研究から、両者とも情動を減弱する効果は高く、扁桃体の活動を抑える作用があることが知られている。
しかし、両者を同じ実験系で比較した研究は、本研究以前にはなかった。
(本当は別グループが直前に発表したけど)

本研究ではReappraisalとDistractionの双方について、fMRIを用いて脳活動の違いを検証している。
健常者30名に、fMRI観察下に、いろんな写真の情動評価をさせるのだが、写真を見せた直後に何らかの文字を出す。
「弱めなさい」が出たときにはReappraisalの思考をさせ、
「3+8-5=6」のように計算式が出たらその正否を判定して回答するよう指示した(Distraction)。

二つのストラテジーは、脳活動の所見に多くの共通したもの(vmPFC↓、 dlPFC, dmPFC, parietal ↑ほか)が見られた。
また各ストラテジーに特徴的に、Reappraisal:OFC↑、Distraction:dACC↑という活動所見があった。
(矢印の↑↓は、賦活の増強・減弱)

考察で、OFCは情動反応制御に関わるので、Reappraisalにおける活動の増強にはわかりやすい。
一方のdACCは遂行機能や、葛藤をモニタする注意回路を反映しているのではないか、とのこと。Distractionで能動的に注意をそらして維持しておくことに使われたのだろうか。

さらにSPMオプションのPPI解析(領域間の機能的結合分析)により、この二つの領域は、扁桃体の活動と反比例することがわかった。
すなわち、情動を反映する扁桃体に対して、これらが抑制的に制御している可能性が示唆された。

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結果としては「前頭葉が情動制御に関わる」というありがちな話であった。

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Photo: Scenery in Omori, Shimane, Japan
(near Iwami Ginzan Silver Mine; the World Heritage)

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