2012年3月1日木曜日

恐怖条件付け/消去と、樹状突起スパインのremodelling

Lai CS, Franke TF, Gan WB.
Nature. 2012 Feb 19. doi: 10.1038/nature10792.

恐怖条件付けは新しい記憶の獲得である。

動物に未知の音刺激と、タイミングを合わせて電気ショックなどの痛みで恐怖を繰り返し与えると、その音を聞くだけで恐怖反応を示すようになる。
単独音刺激の後に起きる恐怖反応としては、マウスならすくみ上がる行動、ヒトなら発汗や瞬きなどで検出できる。

対する恐怖記憶の消去現象のメカニズムは、意外なことに記憶の消去そのものではなく、これも同じく記憶の獲得(上書き)だと考えられている。

恐怖条件付けと消去は、PTSD、特定の恐怖症、不安神経症などの疾患モデル、および治療モデルになりうるとして盛んに研究されている。

ではこの両現象のタイミングで、神経細胞のレベルで見ると何が起きているのだろうかというのがこの研究。

実験は、神経細胞が蛍光を発する遺伝子改変マウスの大脳皮質frontal association cortexを、恐怖条件付けの前と後、そして恐怖記憶消去の後に、それぞれ観察した。
ここで用いた二光子顕微鏡は、厚みのある組織を透過するようにして数ミリの深部まで立体的に観察できる技術である。観察したのは第V層の錐体神経細胞の樹状突起スパイン。

その結果、この領域の樹状突起スパインは、以下のような変化を示した。
・ 恐怖条件付けの強く起きた個体は、樹状突起スパインの刈り込み(%)が強く起きた
・ 恐怖記憶消去の強く起きた個体は、樹状突起スパインの新生(%)が多かった
・ 恐怖条件付けを受けて刈り込まれたスパインは、その後の恐怖記憶消去において、元の位置から0~2μmのごく近傍に新生した(復活したと言えるか?)

音を2種類使ってそれぞれの音について恐怖条件付けを行ったのち、片方の音に対してのみ消去を行うと、 こちらの音だけに対応するようにスパインの新生が起きた。
すなわちcue特異的にスパインの新生が起きているということだ。

1種類の音で条件付け→消去したのちに、さらに、再条件付けすると、やはり元の場所にすぐ近くのスパインが刈り込まれた。

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Natureに最近出た論文から。
恐怖記憶の消去が記憶の獲得(上書き)であるというこれまでの議論に一石を投じるような気がする。
すなわち、消去はやっぱり消去だった、という意味で。

しかし、同じ場所にスパインができたりなくなったりするのは、記憶が、その場所にある痕跡たる何かに依存している可能性があると示したことにもなるのではなかろうか。
もしかして細胞外か?

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またしても代筆なのでちょっとあやふやかも。

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Photo: Pontocho - Kiyamachi pub street, Kyoto

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