2012年12月4日火曜日

強迫性障害を脳から診断できるか

Weygandt M, Blecker CR, Schafer A, Hackmack K, Haynes JD, Vaitl D, Stark R, Schienle A.
NeuroImage 60 (2012) 1186-1193.
本研究はfMRIを用いて、精神疾患を客観診断してみようとするグループの一連の研究の一つである。

精神疾患全般に言えることであるが、疾患概念や診断基準こそあれど、診断するのが精神科医の主観的な"見立て"に準じるために、診断における客観性を渇望し続けてきた。
これを目指して、血液検査、髄液検査、電気生理学検査、行動研究、脳画像研究など、世界中で多くのアプローチがなされているところである。

強迫性障害は精神疾患の一種で、強迫行為と強迫観念で特徴付けられる。
強迫行為とは、不安や不快感を打ち消すための行為で、不合理であることが本人にも判っているのにやめられないものである。
過剰なまでの洗浄行為、確認行為(施錠、火元など)を呈する。
また、強迫観念は、同じく不合理で、不快・不安を惹起するような思考が本人の意志とは無関係に浮かぶものである。
これには加害恐怖、自殺恐怖などがある。

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筆者らは健常被験者10名と強迫性障害患者10名を対象に、ごくシンプルな画像刺激と、複雑なデータ処理を行った。

使用した画像刺激は、不快感、恐怖、中性の3種類の画像セット。
これらを被験者に見せ、その間の脳活動をMRIで記録した。
こうして得た脳活動データを、自作のプログラム(Classifier)に通す。
そのプログラムはこの3種類の画像セットのうちどれを見ているかを、脳活動データから推定するようにできている。
しかもこのプログラムは、計算式を微修正しながらより良い精度になるように出来ているので、弁別タスクの練習問題を課せばその成績が極大化するらしい。

解析実験1では、各被験者内で、脳活動データからの刺激画像の弁別ができるまでにプログラムを洗練した。
未知の被験者に、未知の画像を提示したときにも、それが不快感、恐怖、中性の3種類の画像セットのいずれに含まれているものであるか、3秒分のデータで判別可能になったという。

さて、解析実験2では、1の結果得られた計算式をもとに、健常被験者と患者の弁別を行った。
健常被験者9名と強迫性障害患者9名をモデルにして、残りの2名を脳活動から患者か健常被験者かに振り分けるのである。
その結果、眼窩前頭前皮質と尾状核に、100%の精度で弁別できるごく狭い領域を見いだすことが出来た。

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このように、脳画像データをパターンとして解析し、脳の行っている仕事を推定する方法をMultivariate pattern recognition techniquesとか、Multi-voxel pattern analysis (MVPA)などと呼ぶ。

先行研究で多く適応されている分野は視覚と運動である。
本ブログでも以前に取り上げているのは視覚研究であった。

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本研究の利点の一つが、強迫性障害に特異的な画像セットを使っていないという点である。

おそらく疾患特異的な画像刺激を用いれば、感度は向上するだろうが、患者の不快感も増す。
さらに非特異的刺激による弁別は、将来、複数の疾患をまとめて弁別する技術に繋がるかもしれない。
今はまだ、患者と健常者の2群を弁別するに過ぎないが、3群、4群と増えていって、いずれは「何かの精神障害の人」が受けるだけで、各疾患に弁別されるというような検査に発展するのかもしれないからだ。

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Photos: Hot air balloons, Tochigi, Japan

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