2012年6月20日水曜日

女性ホルモンが脳内神経回路と行動をオス化する

Estrogen masculinizes neural pathways and sex-specific behaviors.
Wu MV, Manoli DS, Fraser EJ, Coats JK, Tollkuhn J, Honda S, Harada N, Shah NM.
Cell. 2009 Oct 2;139(1):61-72.


性ホルモンは神経回路の発達と性特異的な行動に不可欠である。
オス特異的な行動の発現にはテストステロンとエストロゲンが必要であるが、
その二種類のホルモン経路がどのように協調して働いているのかは明らかではない。

この研究では神経回路の発達とオス特異的な行動へのテストステロンとエストロゲン
の関与について調べている。

この研究を理解するためには『アロマターゼ仮説』に関する知識が必要なため、
以下にその仮説について簡単な説明を加える。

げっ歯類の脳は出生時はメス型である。
脳のオス化はエストロゲンによって生じるが、
末梢のエストロゲンは脳内へと伝達されない。
そのため、メスの脳はメス型を維持する。

一方、末梢のテストステロンは脳内へと伝達される。
脳内へと伝達されたテストステロンはアロマターゼによって
エストロゲンへと変換される。
つまり、オスではテストステロン由来のエストロゲンによって
脳のオス化が誘発される。



さて、論文へと話題を戻して・・・

著者らはアロマターゼを発現している神経細胞数や神経線維の密度自体にも
雌雄差があることを示した。これらの細胞のオス化はアンドロゲンとエストロゲン
によって誘発される。しかしながら、そのオス化の機構はアンドロゲン受容体(AR)
に非依存的であった。

このことはこれらの細胞の雌雄差には
アロマターゼが関与していることを示唆している。

言い換えると、アロマターゼを発現している神経細胞は
アロマターゼによって変換されたエストロゲンが働くことで
オス型の神経細胞数や神経線維密度へと発達していくようだ。

つまり、アロマターゼによるフィードフォワード機構が働くということ。

続いてオス特異的な行動についても調べている。
オス特異的な行動として縄張りを守る行動(攻撃行動や尿によるマーキング行動)がある。

AR mutantマウスや新生児期にエストロゲンを投与された脳がオス化したメス
でもテストステロンによってオス特異的な行動が活性化した。

このことは、アロマターゼは神経回路のオス化だけでなく、
オス特異的な行動にも重要であることを示唆している。

この研究によって、
アロマターゼによるテストステロンからエストロゲンへの変換というものは
オスの縄張り行動を調節する神経回路の発達や活性化に重要であることが
示唆された。


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新生児期のオス型脳の決定に加え、成獣期でのホルモンが
オスの行動をさらにオスらしくする。
・・・なるほど、
思春期以降のホルモンバランスの重要性を再認識した。

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Photo: Former prosperious town with canalages - Sawara, Chiba, Japan

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