2012年2月14日火曜日

意識障害患者も返事ができる

Willful modulation of brain activity in disorders of consciousness.
Monti MM, Vanhaudenhuyse A, Coleman MR, Boly M, Pickard JD, Tshibanda L, Owen AM, Laureys S.
N Engl J Med. 2010 Feb 18;362(7):579-89.

重度の意識障害、いわゆる「植物状態」と最小意識状態の患者のうち、少数例に脳機能上観察可能な応答がみられた、という研究。

患者たちの発症の原因はいろいろで、おもに低酸素血症、頭部外傷、脳卒中など。

本研究に参加した計54名に対して機能的MRI(fMRI)検査を行った。
fMRIは脳の活動を血流変化から捉えるという技術である。
知覚、思考、判断、そのほかあらゆる脳活動が起きるとき、脳の中の細胞たちが酸素を求めて血流を変化させるので、それを捉えるのである。

さて、54名の患者のうち5名は意図的な脳活動の変化を起こすことが出来る状態であることが判った。

3名は臨床的に覚醒状態を示す徴候が見られたが、2名はそれも無い状態であったという。
さらにこのうち1名については、同様の課題を使ってYes/Noの返事が出来る状態であることも判明した。

今後はもっと簡便かつベッドサイドで出来る方法を模索しよう、と言って締めている。

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これは同グループによるScience誌に載った論文(Owen, Science 2006)の続報。
さらにこの続報もあるので、3月くらいにアップする予定。

こういう意識状態の患者から覚醒に基づく反応がとれたということは、痛みなどの苦痛や不安・恐怖など負の感情も抱き続けている可能性があるということ。

しかし反対に、治療法の開発により意識状態の回復から社会復帰までできていく希望も高まったとも言えるだろう。

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掲載誌のNEJMは、臨床医などにとってたいへん権威のある学術誌。
あんまり新しくないが、誰にとっても興味深い内容なので載せてみた。

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Photo: Japanese confectionery named Nanohana (rape blossoms)
Kanazawa, Ishikawa, Japan

1 件のコメント:

  1. 2006年のOwenらの続報ですね。

    当時大変興味を持ったことを覚えています。日経サイエンスにも取り上げられたし、かなりインパクトあったはずですね。
    確か自分が抄読会で取り上げたような…。

    症例として紹介された人たちが、どれくらいの知覚を普段からされているのかが気になりますね。

    刺激があって、かゆいのにかけない状態が永遠と続く、なんて感じていたらその苦痛は察するにあまりあります。

    強い刺激には反応しても、普段はある意味dullな状態であって欲しいとは個人的に思います。

    もちろん、コミュニケーションの回復が可能であるという希望を持てるという点で、今後をとても期待しているのですが。

    ところで、角膜に空気を吹き付ける刺激を利用した古典的条件付けが植物状態の人に成立した、という論文もありました。

    Bekinschtein et al., 2009, Nature Neuroscience

    http://www.nature.com/neuro/journal/v12/n10/abs/nn.2391.html

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