2014年6月13日金曜日

被虐待歴と精神症状の間に脳の変化が介在

Childhood maltreatment is associated with altered fear circuitry and increased internalizing symptoms by late adolescence
Herringa RJ, Birn RM, Ruttle PL, Burghy CA, Stodola DE, Davidson RJ, Essex MJ
Proc Natl Acad Sci USA. 2013 Nov 19;110(47):19119-24. doi: 10.1073/pnas.1310766110


小児期の被虐待歴(①)が思春期の神経回路(②)に影響を与え、さらにそれが不安や抑うつ(③)と関係していた、とする論文。

この分野に携わる人には「何を今さら」と思われてしまうかもしれない。
しかし、従来の研究で判っていたのは、①・②・③のそれぞれ二者の間の関係に過ぎなかった。
例えば以下のような研究で二者間の関連が指摘されてきた。
①と②の関係:被虐待歴と脳画像所見との関連を調べる研究
①と③の関係:学校保健や児童福祉の研究で、被虐待歴と現在の精神症状を聴取
②と③の関係:現在の精神症状と脳画像所見の関連を調べる研究

本研究の特徴は、同じ被験者における一連の評価によって、①-②-③の三者に関連があることを示した点である。
これを実現したのが、縦断的研究デザインである。

筆者のEssexのグループはウィスコンシン州においてWisconsin Maternity Leave and Health Projectという縦断的疫学研究プロジェクトを行っている。

縦断的とは、時間を追ってデータを取ることで、過去と現在をつなげる手法である。
このプロジェクトでは、家族構成と小児期・思春期の精神発達との関連を中心にして、多数の研究報告を行っている。

本研究の被験者は、18歳前後の健常者64名である。虐待PTSD患者限定ではないことに留意したい。

被験者は、小児期の虐待歴を評価する質問紙(①に相当)と、抑うつ・不安などの症状評価(③に相当、15~18歳時の各回の平均)に回答した。
②に相当するものとして、安静時領域間脳機能連関resting state functional connectivity(functional MRIの手法の一つ)を評価した。恐怖回路として知られる前頭前野、扁桃体、海馬を指標にして、機能的に関連している領域を全脳で検索した。

解析の結果、被虐待歴の評価値(①)と負相関するような領域間結合(③)を5回路特定することができた。
このうち、左海馬-前帯状回膝下部、右扁桃体-前帯状回膝下部という2回路が、思春期の精神症状(③)と関連していることが判った。
すなわち、強い被虐待歴のある者はこれらの回路の活動が弱く、これらの回路の活動の弱い者はより強い精神症状を有していたということである。

前帯状回膝下部は恐怖記憶の消去過程で、扁桃体や海馬を介した恐怖反応を抑制する領域とされる。
小児期の虐待によってこの回路の不調が生じ、思春期に負の情動反応をより強く感じるようになるようだ。


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Photo: Sea gull and skyline of San Francisco

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