2013年9月12日木曜日

MRIの中でうつ病を治そう

Real-Time Self-Regulation of Emotion Networks in Patients with Depression
Linden DE, Habes I, Johnston SJ, Linden S, Tatineni R, Subramanian L, Sorger B, Healy D, Goebel R.
PLoS One. 2012;7(6):e38115. doi: 10.1371/journal.pone.0038115. Epub 2012 Jun 4.


脳の画像研究といえば、観察による病態解明が主体である。

しかし近年、画像化技術を疾患への介入(治療)に活かそうという流れが現れて、注目を集めている。

本研究はその王道とも言えるもの。うつ病の患者にfMRIを用いたNeurofeedbackを行い、なんと症状を改善させたという報告である。

2013年9月8日日曜日

うつ病発症の個人差につながるNMDA受容体サブユニット

Bo Jiang et al.  Biological Psychiatry, 2013:74:145-155.

Nucleus accunbens(側坐核)は線条体の一部であり、腹側被蓋野からのドパミン入力を受けることから、薬物依存や報酬系との関連で研究が進んできた場所である。下図に示すように脳内の様々な領域と、多様な神経伝達物質を媒介した連絡があることに注目したい。

DA:ドパミン、5-HT:セロトニン、Glu:グルタミン酸
NE:ノルエピネフリン、GABA:γアミノ酪酸
Shirayama et al, Curr.Neuropharma,2006より改変
 さて、うつ病の症状の1つに、以前は「面白い、楽しい」と思っていたことに興味を持てなくなるというように、快感消失とか無快楽症(anhedonia)がある。この背景に、側坐核の関与する脳内報酬系の異常が考えられている。

 本論文の著者たちは、側坐核へのグルタミン酸神経の関与から、慢性的なストレスが側坐核におけるNMDA受容体(グルタミン酸受容体の1つ)のシナプス可塑性に果たす役割に変化をもたらし、うつ病発症に関わることを考えた。




2013年9月5日木曜日

MEMRIを用いた脳活動イメージング

In vivo auditory brain mapping in mice with Mn-enhanced MRI
Yu X, Wadghiri YZ, Sanes DH, Turnbull DH.
Nat Neurosci. 2005 Jul;8(7):961-8.

今回紹介する論文は無侵襲で動物のin vivo脳活性を調べることが出来る方法としてマンガン造影MRI (Mn-enhanced MRI, MEMRI) を提案している論文です。MEMRIについては日本語の論文がいくつかありますので、そちらを参考にしてください(論文1, 論文2)

今回の論文ではMEMRIを使うことで、非侵襲的かつ長期間に渡って同一個体の脳活性を追うことが可能であることを示しています。
  

2013年6月5日水曜日

SSRIが恐怖を高める

A role for the extended amygdala in thefear-enhancing effects of acute selective serotonin reuptake inhibitortreatment
Ravinder S, Burghardt NS, Brodsky R, Bauer EP, Chattarji S
Transl Psychiatry. 2013 Jan 15;3:e209
 

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はうつ病や不安障害の患者に投与される主要な薬物である。高い治療効果がある一方で、SSRIの服用が不安の増大や自殺念慮のリスクを高めると言う報告がある。実際、動物実験でもSSRIの投与後に恐怖条件づけを行うと恐怖記憶がより強固になったという論文があるが、そのメカニズムまでは解明されていなかった。

この研究は、SSRI投与後の恐怖条件づけで恐怖記憶が強まる背景に、分界条床核(BNST)と扁桃体中心核(CeA)の活性化が関わることを示したもの。

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2013年5月30日木曜日

会話のリズムが合う相手とは脳波も同調する

Inter-brain synchronization duringcoordination of speech rhythm in human-to-human social interaction
Kawasaki M, Yamada Y, Ushiku Y, Miyauchi E, Yamaguchi Y
Scientific Reports 2013; 3: 1692

-コミュニケーション時の2者の脳波を同時に計測し解析する手法を確立-

上のように、論文を報告した理研からプレスリリースとしても発表されたので、あえて詳細に解説する必要はないかもしれない。

ここでは簡潔に紹介する。

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「仲が良い人とは行動のリズムが合う」というように、行動のリズムが同調することと、相手を近しい存在に認識することに関係があることが知られている。
これを逆に利用して、仲良くなりたい相手の動作を真似て見せることで、親近感を抱かせるというテクニックもある。

これまでの研究で、動作的な同調が、脳波リズムの同調を伴うことが示されてきた。
それなら会話にもそれが当てはまるのでは?と考えられるが、安直に会話をタスク化するのには課題があった。
というのも、会話には動作的リズム(スピードやタイミング)以外にも、意味や文脈といった要素があるために、そのいずれが脳波の同調を招くのかはっきりしていないのである。

本研究では、会話から意味や文脈の成分を除外した「実験的な会話」として、交互発話課題を開発した点で新規性を主張している。

2013年2月16日土曜日

ヒトの脳を非侵襲的に刺激できる?





ヒトの脳に対する非侵襲的な刺激法の1つに、経頭蓋直流刺激Transcranial direct current stimulation (tDCS)法がある。
これは、頭に弱い直流電流(1-2 mA)を通すことで、神経細胞(グリア細胞?)の活動を修飾することが可能と考えられている。その作用機序には不明な点が多いが、今のところ「刺激部位にある細胞の静止膜電位を変動させる作用(閾値下)がある」と言われている。

近年、この刺激法を用いた研究をよく目にする。そこで、具体的にどのようなことに応用が可能か、また、限界は何かといった点について気になったので、いくつか論文を探してみた。


2013年2月15日金曜日

サイコパスの脳




Reduced prefrontal connectivity in psychopathy
Motzkin JC, Newman JP, Kiehl KA, Koenigs M
J Neurosci. 2011; 31(48):17348-57

私たちは日頃何が好きだとか嫌いだとか、色々な感情を持って生活していて、それがあたりまえだと思っている。しかし世の中には感情が乏しく、他者への共感や罪悪感を感じにくい人々がいる。
サイコパス(精神病質者)と呼ばれる人たちである。

サイコパスは他者を思いやることがなく、平気で嘘をつき、責任感がないなどと言われている。衝動的で、犯罪歴がある人が多いのも特徴の1つ。成人の囚人のうち1/4はサイコパスであるという説もあるようだ。

その一方で、口が達者で表面的には魅力的に見えるともいわれる。適応したサイコパスは、表面的には普通の情動をもっているかのように振る舞う術を身につけていて、一見その人がサイコパスだとは分からない。

なにやら怖い、という印象を受けただろうか。

今回紹介する論文は、そんなサイコパスと呼ばれる人の脳を非サイコパス者(ここでは便宜上、健常者と呼ぶ)と比較し、脳内のコネクションが弱いことを報告したもの。