2012年3月7日水曜日

記憶形成における脳波律動とBOLD信号の関係

The relationship between brain oscillations and BOLD signal during memory formation: a combined EEG-fMRI study.
Hanslmayr S, Volberg G, Wimber M, Raabe M, Greenlee MW, Bauml KH.
J Neurosci. 2011 Nov 2;31(44):15674-80.
(Baumlのaはウムラウト)

記憶とは、多くの研究者が興味と関心を寄せている認知機能の1つである。

「記憶の遂行中にヒトの脳はどうなっているのか?」この疑問を解くために脳波を使用した有益な研究が行われてきた。
例えば、記憶の「獲得」時には、シータ律動の増加とアルファ/ベータ律動の減少が起こることが報告されている。
しかしながら、脳波の測定だけでは、関与する脳部位や脳波で得られた特定の周波数変化が何を意味しているのかわからないのである。

2012年3月1日木曜日

恐怖条件付け/消去と、樹状突起スパインのremodelling

Lai CS, Franke TF, Gan WB.
Nature. 2012 Feb 19. doi: 10.1038/nature10792.

恐怖条件付けは新しい記憶の獲得である。

動物に未知の音刺激と、タイミングを合わせて電気ショックなどの痛みで恐怖を繰り返し与えると、その音を聞くだけで恐怖反応を示すようになる。
単独音刺激の後に起きる恐怖反応としては、マウスならすくみ上がる行動、ヒトなら発汗や瞬きなどで検出できる。

対する恐怖記憶の消去現象のメカニズムは、意外なことに記憶の消去そのものではなく、これも同じく記憶の獲得(上書き)だと考えられている。

2012年2月21日火曜日

MALDI-IMSで海馬の代謝物イメージング



(カイニン酸誘導発作後マウスの海馬ニューロンにおけるエネルギー動態を質量分析で測定し、可視化した...意訳です)
Sugiura Y, Taguchi R, Setou M.PLoS One. 2011 Mar 22;6(3):e17952.

研究室では少し話題のPLos One誌、2011年の論文。
浜松医科大の瀬藤先生の教室だが、同教室は質量顕微鏡を用いた業績で有名です。
技術を習いに行ってもいいかもしれません。


さて、論文だが、matrix-assisted laser desorption/ionization (MALDI) imaging mass spectrometryを用いてマウス海馬のCA3領域を見てみましたというもの。

2012年2月14日火曜日

意識障害患者も返事ができる

Willful modulation of brain activity in disorders of consciousness.
Monti MM, Vanhaudenhuyse A, Coleman MR, Boly M, Pickard JD, Tshibanda L, Owen AM, Laureys S.
N Engl J Med. 2010 Feb 18;362(7):579-89.

重度の意識障害、いわゆる「植物状態」と最小意識状態の患者のうち、少数例に脳機能上観察可能な応答がみられた、という研究。

患者たちの発症の原因はいろいろで、おもに低酸素血症、頭部外傷、脳卒中など。

本研究に参加した計54名に対して機能的MRI(fMRI)検査を行った。

2012年2月10日金曜日

実験指導について先達に学ぶ

明治大正の物理学者で、夏目漱石に師事した文人でもある寺田寅彦の作品を読んでいたら、ここで紹介したいものがあった。

本作は、大学教員であった氏が学生の物理実習指導をすることになり、その教授法について述べたものである。
テーマは「物理学実験の指導」であるが、医学も含む自然科学系全般の研究者にとって研究業務や科学に対する姿勢にも汎化できる意見である。

少なくとも、医学部で生理学実習を担当して、毎年の実習で指導方法を修正しつつ学生の学習効率を高めてきたつもりの私にとっては、参考になる内容であった。

さて、ふだんの記事に比べて長いのだが、言文一致体で読みやすいので割愛することなく紹介したい。

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物理学実験の教授について
寺田寅彦

 理化学の進歩が国運の発展に緊要であるという事は永い間一部の識者によって唱えられていたが、時機の熟せなかったため一向に世間には顧みられなかった。欧洲の大戦が爆発して以来は却って世間一般特に実業者の側で痛切にこの必要を感ずるようになったと見え、公私各種の理化学的研究所が続々設立されるようになった。それと同時に文部省でも特に中等教育における理化学教授に重きをおかれるようになって、単に教科書の講義を授くるのみならず、生徒自身に各種の実験を行わせる事になり、このために若干の補助費を支出する事になった。これは非常によい企てである。どうかこのせっかくの企てを出来るだけ有効に遂行したいものである。

 自分は中等教育というものについては自分でこれを受けて来たという以外になんらの経験もないものであるが、ただ年来大学その他専門学校で物理実験を授けて来た狭い経験から割出して自分だけの希望を述べてみたいと思う。勿論我田引水的のところもあろうが、ただこれも一つ参考として教育者の方々に見て頂けば大幸である。

2012年1月10日火曜日

予演会

1~3月は、大学院修了のための論文審査が行われる季節である。

自分がやってきた研究を論文にまとめて提出する、だけではない。
本審査はたいてい、自分の担当でない複数名の教授の前で口頭発表するのだ。

もちろん発表後には質疑応答の時間も設けられていて、学会・研究会で発表するのに似ているのだが、「審査される」という気持ちがあるので、どうしても少し違う緊張がある。

そもそも院生などは、どこかで研究発表する経験が乏しいので、何だって緊張はする。

2012年1月5日木曜日

明けましておめでとうございます。

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。

滞りがちな更新にも拘わらず、 私どものブログに実に多くの閲覧をいただいて、関係者一同たいへん嬉しく思っております。
この場を借りて感謝申し上げます。

これからも脳・神経系の学術論文レビュー、学界ニュースレビュー、旅行記などを中心に、情報を充実させるべく努めていきますので、よろしくお付き合いください。

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Photo:
Senso-ji, Asakusa, Tokyo